陶芸家を目指す人が知っておきたい3つのこと

粘土の創作活動や、造形にたずさわったことのある人であれば一度は夢見るのが「陶芸家」ですよね。最近ではNHKの連続テレビ小説「スカーレット」で主人公喜美子が窯元に就職したのをきっかけに女性陶芸家を志すドラマを観て、憧れを抱いている人も少なからずいるのではないでしょうか。

でも、「陶芸家」って何をする人でしょう?「器を作る人」、「ロクロを挽く人」…確かにまちがいではありません。でもそれだけのイメージで憧れたり、まして職業として選択するのはかなりリスキーです。

あなたがもし陶芸家を目指そうというのであれば、ぜひふまえておいてほしい3つのポイントがあるのでご紹介します。

「陶芸家」という名の誤解

陶土・磁器土を用いて陶磁器を作る人を「焼き物師」や「陶工」といいますが、一会社員として器の製造を職業とする方々をさします。陶芸といえば誰しもがよくイメージする「ロクロ」は、そのうちの成形に長けた職人のうちの「轆轤師」のお仕事です。一日ロクロに向かい同じものを何十、何百と挽かなければいけません。

本来陶磁器業は分業制です。「型師」「絵付師」「デザイン(図案)」のほか、焼成担当、釉薬担当、納品や梱包する人もいますし、営業・販売活動に回る人、イベントなどの企画・広報活動をする人もいます。もちろん会社ですから事務や経理も必要です。会社によっては一人で何役もこなさないといけないところもあるでしょうし、完全に分業化された大きな窯元もあります。

「陶芸家になりたい」と思って陶磁器製造会社に就職しても、その人の能力や努力、得手不得手によって必ずしも成形や絵付けの仕事にありつけるかはわかりません。

かたや「陶芸家」というのは職業ではありません。陶磁器業を長年経験して道を極めた人が独立などを果たして、すべての工程を自分の工房で行ういわば芸術活動に従事している人のことを主に指します。(窯元の経営者の肩書きになっている場合もあります)

近年では大学などで「陶芸科コース」などが設けられて、卒業と共に自分のアトリエを造り、陶芸家デビューを果たす人も増えているようですが、成功する人はごく一握り。人気が出て作品が高値で取引されるようになるまでは相当な時間と労力が必要になります。それまでは極貧生活を強いられるケースも往々にしてある険しい道のりです。

伝統工芸?それとも芸術?

陶芸に関しては境界線が分かりにくい面がありますが、窯元のコンセプトや窯元が継承してきた伝統に基づいて「道具」を製造する焼物師が「陶工」。オリジナル性を追求し芸術性のある作陶を自身でプロデュースしていくのが「陶芸家」と考えれば分かりやすいかもしれません。

よく「人間国宝」という言葉を耳にすると思いますが、文化財保護法に基づいて文部科学大臣が指定した重要無形文化財の保持者として認定された人の通称です。陶芸家にも人間国宝はおられます(工芸技術部門)。芸術性(または歴史的)価値の高いものを生産し、さらに高度な技術を体得かつ精通している人物であるということが選定基準になります。

これから鑑みても人間国宝になる陶芸家は文化・芸術に寄与した人物であることが良く分かります。ただ、能楽や歌舞伎・文楽に人間国宝がいるのと同様、伝統工芸としての「技」を体得していることも重要な要因です。伝統的工芸品産業振興協会が認定する「伝統工芸士」を目指して日々研鑽を重ねる作陶家が多いのもまた事実です。

ちなみに人間国宝に音楽(尺八・こと等)はあっても、絵画のジャンルはありません。芸術を重んじつつも「伝統工芸」である陶芸は、職業として選択するには非常にファジィな位置づけともいえ、志す人を悩ますかもしれません。

学校に通う?陶芸教室に行く?

大学や専門学校を利用する

あなたはどうやって作陶の技術を学ぼうと思っているのでしょうか。大学の陶芸科を受験しようと思っていますか。それもけっして悪い選択ではありません。時間をかけて学んだ知識はきっとあなたの血となり肉となります。切磋琢磨し合える仲間もきっと見つかります。ようは卒業してからどの道に進むかの選択を期間内に見極めることが肝要です。

学生時代にすでに実績を十分に挙げて、人気を得て(ファンを獲得して)いれば卒業後にすぐ事業を立ち上げることも可能です。しかしそれはごく限られた者のみが成せることです。大半の人は製陶会社かまたは全く別のジャンルの企業の面接を受けることになります。いずれにせよ大学で学んだことはさほど役に立たないことを想定していて損はありません。

時間をかけている余裕もない、費用も限られているという人は職業訓練校という手段もあります。かなりリーズナブルな費用で1~2年間専門的な指導を受けられます。製陶会社や窯元に就職しようと意志を固めているのなら、まよわず受講することをお薦めします。各窯業地で骨を埋める覚悟をもって挑みましょう。地域によってはハローワークで斡旋してくれるところもあります。

陶芸教室に通う

陶芸のカルチャー教室にでも通って、将来的に「陶芸家」として独立して個展などをしてみたいと思っている方。残念ですがあなたが作陶を職業にすることはかなりハードルが高いといわざるをえません。町でよくあるカルチャースクールで専門知識を得て、職業として成立する技術を習得することはまず不可能だからです。

物理的にどうしてもその方法しか選択肢がないのであれば、陶芸作家として生計を立てている先生を探し、ノウハウを伝授してもらえるかを下調べしましょう。できれば陶磁器の産地のスクールが望ましいです。お住まいの近くが焼き物の産地でなければ引越しも視野に入れておきましょう。まずそこに住むための資金調達や引越し準備(住まい探し)を早急にはじめる必要があります。授業費用も馬鹿には出来ませんから、引越し先で仕事も見つけなければいけません。

職業に結びつくかはあなた次第。寝る間も惜しんで修練に励み、そして先生から技術だけでなく、接客・経営に関することまですべて吸収してください。出来るだけ短期間で習得するのが望ましいでしょう。アルバイトをしながら昼夜限らず勉強することはそう何年も続けられることではないからです。

作業として習得すること
練り・成形(削り)・絵付け・装飾やその他の成形技術・焼成工程・釉薬の調合・粘土の製造/管理

 

そのほかには、経営に関するノウハウ習得や人脈作りなども大切です。個人事業主となるわけですから、商工会の会員になることもありますし、税務署で確定申告も行わなければいけません。個展をして販売をするためにはギャラリーのオーナーと密な関係を築いておくことも必要になります。

それだけではありません。作品作りのインスピレーションを得るためにさまざまな芸術や文化活動に触れ、感性を磨いておく努力も必要です。関連書籍もたっぷり読みましょう。

最低限たしなんでおくに越したことがないジャンルを明記しておきます。あくまで一例ですので参考にしてください。

知識として習得したいこと(一例)
書道・茶道・華道(生け花)・お料理・お酒・植物 そしてラッピングや桐箱の知識

 

上記習得と平行して、アトリエ・窯場用土地探し、販売店・委託店探しも積極的に行わなければいけません。アトリエ(工房)建設のための費用捻出も大きな課題となるので視野に入れておきましょう。

最後に

製陶会社に勤められる夢が叶ったとしても、お給料は決して高給とはいえません。同世代の平均賃金と比べると十中八九安いでしょう。自分で開業するのであれば尚更です。

常に未来のビジョンを見据えて、設定した目標をクリアしていく計画性と揺らぐことのない熱意を持ち続ける確固たる信念がある人ならばチャレンジしてみることをおすすめします。

※習い事から「やってみたい」という人はこちらの記事も参考に

※当アカデミーでは決して「陶芸家になるための指導」を行っているものではありません。あくまであなたがライフワークとして生涯において生きがいを見出せるフィールドを探すためのお手伝いをさせていただいています。もし見つかればそれは一生において宝物になるはずです。

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