器を買うときのひとつの選択肢になるものに高台(こうだい)があります。ショップを訪問するとよく「お手にとってご覧ください。」と言われたことがあるかとおもいますが、老舗陶磁器やさんなどでは高台について説明をしてくれますよね。
人間でいうと足に相当するものが高台なのですが、なかにはないものもあります「碁笥(ごけ)底」。種類や高さもさまざま、高台についての予備知識を解説しますので用途や必要性に応じて購入時の目安となさってください。
必ずなくてはならない抹茶碗の高台
もっともよく見かけるのがお茶碗の高台です。抹茶碗の場合は美観的な要素が多分にありますが、高台の良し悪しで作品の気品さえも影響を及ぼすパーツです。
茶道をたしなんだことがある人なら良くご存知だとおもいますが、一服したあとはお茶碗を拝見する作法があります。私の場合祖母が茶道を嗜んでいて、子供の時によくお稽古をさせられました。飲み干したあとは口縁(飲んだところ)を拭いて、茶碗を眺めるのですが、裏返して高台(や高台脇)、できれば名(サイン)なども拝見したものです。
そのあとは次の人にその茶碗を渡します。ようするにひとつの茶碗で飲みまわしするんですが、潔癖症の人には無理かもしれませんね^^:
このとき高台がひとつの役割を果たしてくれます。賢明な方はもうわかったかもしれません。そうです。指をそわせやすく持ちやすいんです。
ご飯茶碗なども同じことが言え、高台がなければ持ちにくかったり、持ち上げてから持ち直す手間がかかるでしょう。高台は持ち上げやすく設計された必要不可欠ないわばテクニカルデザインでもあるのです。
高台はがたつきを抑えるための足でもある
テーブルとの接触面を畳付きなどとよぶことがあります。茶会などに多いようです。料理好きの人なら「糸尻(糸底)」なんてよぶ人もおられます。
のちのち分かったことですが、ロクロで陶器を作るときに糸(しっぴき)で切り離すのですが、この糸の跡を残す場合があるので糸尻と呼ぶようになったもようです。
糸尻で包丁を研いだら、砥石にかけたようによく切れるようになりますが、ぜったいにしないでくださいね。危険ですし、高台がかけたりしたらがたついてしまうかもしれません。
高台には大きくわけると3種類あり、削りだしたものと付け足したもの(付け高台)そして型を用いて成型したものがあります。
いずれも器の安定に一役買ってくれます。さまざまなタイプがありますが、もっともオーソドックなものは撥(ばち)高台とよばれているもので、サークル状の突起になったものです。接触面が最小限に抑えられていて日常生活において非常に便利な構造になっています。
切り高台のうそ、ほんと
萩焼などでよく見かける切り高台ですが、お殿様が使うものではなく、庶民が使うものとしてキズをいれたという説がありますが、いささか強引な印象すら受けます。
その他にも諸説あって窯焼きの際に内側まで炎が通りやすくするためとか、机に(水分等の影響で)くっつくのを予防するため、紐にしばって運ぶ際に紐が引っかかりやすいように、などなど当時の作り手(使い手)の知恵によるものと考えたほうがしっくりこないでしょうか。
どこか不完全なものを慈しむ情緒のようなものも感じますよね。
釉薬掛けの際には便利な高台
陶芸教室などにいって、薬掛け(施釉)までされた人なら経験があるかもかもしれません。焼成前に釉薬という「うわぐすり」を掛けるのですが、高台があるとそこをつまんで薬を掛けることができるのでひじょうに重宝します。
もし高台がなければ作品の胴回りや口元を持って薬をかけなければいけません。または釉掛けハサミとよばれるものを使用します。
薬によっては手の跡がくっきり残ってしまいます(それがいい景色になることもあるんですが・・・)。ただ手は汚れますしね。工房は屋外や半屋内が多いから、冬の工房で手を洗う職人さんにはけっこうシビアな環境下での作業ともいえます。
近年では施釉の際に、ラテックスや撥水剤というのを使用することが多いようです。塗布した部分だけ釉薬がはじかれるというすぐれものです。昔は手作業で糸尻や底辺部分についた釉薬をひとつひとつ取り除いていました。
ラテックスや撥水剤は装飾に用いられることもありますが、焼成時に窯の中の棚(板)に作品の底辺が溶着しないようにするために、釉薬の除去の工程を省略してくれる便利なものです。(釉薬が熱で溶けてガラス化し、棚板とくっつくため)
面積はすくなければ少ないほど作業は効率化します。そういった意味でも平らな(碁笥底)よりも高台の糸尻があったほうがいいわけです。
お店で商品を手にとって見たときによく観察してください。作品全体に釉薬がかかっていて、糸尻部分だけ無釉のものと、高台脇までしか薬がかかっていないもの(下部が全く無釉:土見せ)にでくわすことがあるかもしれません。
目土を用いた焼成
陶芸作品(主に器)の中には作品全部に釉薬がかかっているものもあります。ここで疑問がわきませんでしょうか?そうです、棚板にくっつくはずです(もしくは重ねて焼いた場合作品同士が)。
これは「目土」とよばれる荒めの土(砂)を作品の底に3つ目立てして焼き上げる技法のひとつを用いています。お茶碗の内側(見込み)に三ヶ所、まあるい色の違った部分がある作品を見られたことはなかったでしょうか?これは目土を用いて作品を重ね焼きした作品であることを指します。
地域や作家さんによっては貝殻を用いて焼成する場合もあります。素地(施釉していない部分)に貝殻を用いてる焼いている場合もありますが、これはその土地の土の成分等の関係で、焼成時に溶着しやすいのを予防する働きがあります。
近年ではアルミナ(粉)を塗って防止したり、シートを敷いて焼成する作家さんもおられます。
先人の知恵「トチ」
「トチ」という道具を用いる場合もあります。針が三本出ている道具で、その上に作品を乗せて焼成します。焼きあがり後は三ヶ所小さな穴が開いていて目立ちません。
手作りで作る人もいますが、比較的安価でいろんなサイズが販売されています。ただバランスがとても大切で、大きさを間違えると焼成時に倒れてしまうリスクもあります。また作品によってはゆがみを生む結果にもなるので、経験が必要な道具ともいえます。流れやすい釉薬による棚板との固着予防にも一役買ってくれます。
ペンダントトップなどのアクセサリーで作品全部に施釉したいときなどに便利かもしれませんね。
じゃまな高台 ケースBYケース
ここまで書くと「高台」って大切なものなんだなあって思うかもしれませんが、実際はあるとじゃまなケースもあります。
壷や一輪挿しなどの花器などでは高台があると美観を損ねる場合があります。お皿や茶碗などで凹凸があるために洗うのが面倒だったり、洗った後に伏せていると水が溜まったりして困ったケースはないでしょうか。
お料理をいただくときに手に持つ器とそうでない器がありますよね。手にもつ器にはあると大変便利ですが、そうでないものにはなくても困るものではありません。コーヒーカップは取っ手がありますし、お湯のみや徳利は同体を掴みます。美観を損ねないのであれば無くてもことたりますので、あとはあなたのお好み次第。
機能性も兼ね備えていてあると便利な高台ですが、用途に応じて適切なものを選択することが望ましいと言えます。
-お手入れ- 高台の黒ずみはなに?
長年使用していると、高台が黒ずんでくる場合があります。もちろん汚れもありますが、うわ薬がかかっていないため「カビ」が繁殖しているケースがよくあります。磁器土を用いた京焼や九谷焼きなどはキメの細かい土なので、よく食器洗剤で洗ってやるか、場合によってはハイターなどの漂白剤を用いることで、黄ばみや黒ずみが落ちるケースがあります。
残念なことですが、素地のあらい陶器に関しては取り除くことはまず不可能です。もう一度焼成をしなおさなければ取れません。洗い物がすんだら出来るだけ速やかに水分を取り除き、よく乾燥させてから食器棚にしまうようにしましょう。くれぐれも電子レンジで乾かすなどということはしないでくださいね。
ではまた。