陶芸で上達するには何を作ればいいのか(初級)

習い事(お稽古)として陶芸教室や陶芸スクールに通う人に、「何を作れば(練習すれば)うまくなるのか」といった質問をよく聞かれます。

ひとそれぞれ得手不得手がありますから一概にはお答えできませんが、もし今「うつわ」作りから習い始めているという人で、今後も食器関連の作品を作りたいのであれば、一つの目安となる事例をご紹介します。

切立湯呑み

とにかく湯呑みを作らされる教室

これはまだ私が駆け出しの頃の話です。造形をしてみたいという思いは幼少よりあったのですが、それをどういった工程(ノウハウ)を用いて形にするかがまったく察しがつかず苦慮していた時期がありました。

とりあえず電車で片道1時間以内の陶芸教室をピックアップして、パンフレットを送ってもらったり、(今のようにインターネットはなかったので)見学に寄せてもらったりしました。気に入ったところでは体験入学もさせてもらいました。

そんな中で一つの教室ではとにかく1~2年間は湯呑み(切立湯呑)だけを作り続けるというコースがありました。あとになってわかりましたが、訓練校などのカリキュラムをどうも取り入れているようです。

幸いにも半日近いお時間をいただいたので、ひたすら湯呑みを作りました。たしかいきなり電動ロクロによる成型だったと思います。生徒の方々も二年以内の人が多いのか、皆さん湯呑みを制作していました。

「紐づくり」でいえば、いかに粘土を均等に積み上げられるかという練習になります。また電動なら、遠心力や手の使い方によって外へ外へと広がりがちな粘土をいかにコントロールして、「立ち上げ」るかという訓練にもなります。

でもこれって大して面白くないですよね。特に右も左も分からない素人には。もちろんその教室はパスしました。

※成型以外にも「削り」や「薬掛け」、絵付け・焼成等の工程があるので、大量の湯呑みがあれば色々試せるというメリットもあります。基礎からみっちりと学びたい人なら通ってみる価値はありますよ。

ご飯茶碗

茶碗作りは奥が深い!?

本格的に作陶に従事して数年後、造形と並行して茶碗作りに没頭しました。なぜかというと納得のいくお茶碗がいくら作ってもできなかったからです。

大きさ、重さ、形状、フィット感、粘土の選定そして釉薬。技術が向上してくると、かなり薄造りすることが可能になるのですが、薄すぎるとご飯をよそった時に熱くて持てないなんてこともありました。また毎日使うものですから、丈夫さも要求されます。

雰囲気を出そうと意気込んで粘土を選りすぐったり、石を混ぜてみたり(石ハゼ)すると返って逆効果。洗いにくかったり、使用していると水が貫入にしみ込んだり(カビの元)、とても日常生活で用いるのには不適切ともいえるお茶碗を量産しました^^:

仕事始めのルーティンと化していた茶碗作りでしたが、ある日のことふと気づくことがありました。「茶碗作りはすべての器の成形過程を網羅」しているのでは?と思ったのです。

製作途中のお碗

「茶碗はすべてに通ずる」

元々器というものは「器量」という意味合いが転じて、入れ物や容器など道具の名称にも用いられたそうですが、ようは水や食べ物を溜めたり、貯蔵したりするものです。

ある先生に「手で水をすくう形を作ってごらん、それが器だよ」と言われたことがあります。そうです。ちょうどお茶碗のような形になるのです。

それを小さくすればぐい呑みや小鉢の様な形になりますね。大きくすれば、抹茶碗や煮物鉢、どんぶり(ボウル)のようになります。さらに大きくすればサラダボールにもなりえます。

それの延長線でもっと積み上げて今度は口をすぼめていけば、花器や壺のような形になります。全体を小さくすれば徳利になって、首を長くすれば一輪挿しに早変わり…。

成形過程

 

あくまでロクロを用いて、円筒形の作品に限っての話ですが、大きさや、積み上げる土の量(角度)は違えど、基本はすべて同じなわけです。こう言うと少し気が楽になりませんか?

 

お湯呑みの山呉須を用いた湯呑み(磁気土)

積み上げのコツをつかんだら、いざ茶碗作りに!

最初に「湯飲み」を作れと指導してくれる先生が言うのも一理あります。「手びねり」という工程を経験すれば、いかに器が出来上がるのかというプロセスがよく分かります。

積めば積むほど粘土自身の荷重が器(作品)の下部にかかってきます。土台がしっかりしてなかったり、荷重に耐えられる厚みがなければひしゃげてしまいます。せっかく時間をかけて一所懸命に積み上げた努力が水の泡…。

つまりバランス感覚の問題で、これらは回を重ねるごとによって体が覚えていきます。(教室によっては円柱の花器を制作課題とするところもあります。)

電動ロクロにおいてもこの「立ち上げ」を体得しておくとのちのち重宝します。流派にもよりますが、まずまっすぐに立ち上げてそののち側面を倒して碗状にする手法もあるからです。

お碗の側面は曲線を描いています。よく「アール」という言葉を用いますが、「胴」や「腰」と呼ばれている部分のゆるやかなカーブですね。

察しのいい人なら分かったかもしれませんが、まっすぐに積み上げるのではなく「斜め」に積んでいくから難しいというわけです。気品を持たせるためにもアールを美しく形成する必要があります。粘土とよく対話をしながら、重力に耐えうるギリギリのところで積み上げていきましょう。でないと崩れたり、ひょこゆがんだりしてしまいます。

湯飲みでコツをつかんだという人は早々にお茶碗作りに取り掛かってください。二年間もひたすら湯飲み作りをしていても、それこそ進歩はさほど見込めないのではないでしょうか。

壺

抹茶碗には手を出すな!?

お茶碗作りをやってくださいと言いながら、抹茶碗はダメって矛盾してますよね。でもそれだけ“抹茶碗はむつかしい”ってことがいいたいのです。

抹茶碗にはいろいろと決まり事があるほかに、持った際の手の中の座りが要求されます。これが人それぞれ違うからやっかいです。使う人の身になって考えると重すぎると扱いにくいし、軽すぎると重厚感がなくなるケースがあります。また茶道家(流派)のスタイルによっても、形状や用途が千差万別。

もしどうしても抹茶碗にチャレンジしてみたいという人は、最低でも何回か茶会に足を運ぶとか、どこか師範の催す教室に入会して作法を嗜むことをお勧めします。

●表千家 千家の家督を継いだ千家流茶道の本家

●裏千家 分家筋にあたるが、諸流派中最大の流派ともいわれる

●武者小路千家 同じく分家筋、合理的な所作を重視

三択か?と思ったあなた、とんでもない。それぞれに流派がいくつもあり、500を越えるともいわれています。また抹茶碗の種類は私の知ってる限りでも10を超えます。(ことお碗の形状でいったら20種類以上、いや無限大かもしれませんね。)

茶会に赴くにしても行動範囲は限られてきます。そこが何千家でどんな流派かは行って(たずねて)みないことにはわかりません。まさに一期一会。そこで学んだ知識を活かして抹茶碗作りに励んで頂ければ、無駄な寄り道を回避することが可能なのではないでしょうか。でないと家中“漬物入れ”が溢れてしまうようなことになりかねませんからね^^

幸い私の場合はお茶屋さんを介して、茶道教室の先生や生徒さんのご意見を拝聴することができました。練習用とはいえ、それなりの金額でお買い上げいただきました。上達すればお褒めの言葉も頂戴しますし、作品自体の金額も上がります。

中には桐箱を頼まれるケースもあるので、採寸や箱書きの勉強にもなります。「四方掛け」という紐の結び方も下調べしておいて損はありません。

ご飯を盛るのに「お茶碗」?これ如何に(一口コラム)

皆さん疑問に感じたことはないでしょうか?

どうしてお茶を飲むものを「お湯呑み」といって、ご飯をよそうものを「お茶碗」っていうのでしょう。

平安時代に中国からお茶と共にやきものが伝来し、やきもののことを「碗」と称したという謂れが濃厚のようですが、たぶん、ゴロが悪かったから年数を経て変化したんじゃないでしょうかね^^

ちなみに東北以北は「盛る」、東京・関西では「よそう*」と表現します。茶碗にご飯をよそって、ご飯茶碗。コーヒーを入れてコーヒー茶碗…。

日本語って面白いですね。ではまた
*「よそる」と表現する地域もあるそうです。