備前焼などの器は水が腐りにくいのか!?

台所の水甕

備前焼などの焼き締めの器は水が腐りにくい。などとよく言われますが、本当にそうなのでしょうか。実際に実証実験をやってみることにしました。それに先だって書籍やWEB情報などで得た焼き締めの特性を記載していますので、よければあわせてご覧ください。

焼き締めの器って何?

焼き締めは備前にかぎらず、越前焼や丹波焼、朝ドラで話題の信楽焼きなどでもあり、釉薬を使用せずに焼いたものを「焼き締め」と称しています。

炻器(せっき)のひとつとして分類されています。学校では歴史の時間に「須恵器」という名称で勉強したのがそのルーツのようです。

ひらたくいえば縄文(式)土器みたいなもんかな(ちがうって怒られそう)

釉薬を用いずに焼成(窯焚き)をおこないます。その際に用いた松の木(薪)などの灰が降りかかって「窯変」とよばれる模様がついたりします。ちょっと通な人なら「景色」などとおしゃれな言い方もしてますね。

職人さんたちが気を配るのが炎の通り道なんですが、ちょうどいい場所に置かれていた作品には炎が通ったあとが残って、いわゆる「緋色」が付きます(酸化焼成に多い)。今TVで話題の「スカーレット」ってやつですよね。

焼き締めとはいえ、焚口付近にはかなり灰が降りかかってしまうので、溶けてガラス化して、釉薬を掛けたような作品になるものもあります。見た感じは焼き締めには思えようなものもあるのですが、ひとつの窯からごく少数しか取れないものなので、希少価値があり、「灰被り」といって慈しむ人も多いです。
お値段もそこそこ。

窯場

焼き締めの器は通気性に富んでいる!?

さて本題の焼き締めの器は水が腐りにくいのかというテーマですが、釉薬がかかっていないので、水や飲み物がじかに土肌に触れるわけです。素地(「きじ」ともよぶ)微細な気孔があり、通気性もあるといわれています。

水甕(みずがめ)ってご存知でしょうか。飲料水などを溜めておくものですが、ペットボトルなんかなかった時代には台所や土間には欠かせない生活用品でした。「備前水瓶水が腐らぬ」などといってばあちゃんらはかなり珍重してたものです。

科学的な根拠は不明ですが(研究している人もいるらしいけど)昔の人が実体験を元に、行き着いた「生活の知恵」ですから、ある程度の効果は見込めるということでしょう。

水甕

実は水自体は腐るものではありません。
水の中の微生物の影響で濁ってきたり、腐った臭いを発したりしています。密閉された容器の中の水は1年ぐらいもちますからね。保存技術のなかった時代には貴重な水が長持ちする甕は貴重なアイテムだったことがうかがえます。

岡山理科大の研究で遠赤効果も認められていますね。そのせいか「備前玉」と称した製品が店舗やお土産屋さんで販売されています。

ご飯を焚く時に入れるとか、備前玉を入れておいた水でコーヒーを作ると美味しくなるといわれています。お風呂に入れるとより温まるなんて商品もあるようですが、いくつ入れないといけないんでしょうか^^:

私事ですが作った焼き締めの作品をお譲りした人が、WEB情報を元に水を入れて寝かせたものを食事の際に飲むということを検証してくれたのですが、かなり美味しくなったと喜んでくれて、それから毎日のルーティンにされたというケースもあります。

POINT

すでに熟成されている日本酒の場合、一晩冷蔵庫で(焼き締めの器に入れて)冷やすと味が落ちるといったことがあるそうです。ご注意ください。

「コーヒーが美味しくなるか」もいずれ検証してご報告したいと思います。

壺

ビールが美味しくなる備前焼

これはけっこう有名な話ですよね。私自身も試したことがあります。
グラスにビールを注いだ場合と比べると泡立ちと、泡のもちが違います。

素地に凹凸があるため、きっとキメ細やかな泡になっているのでしょう。泡があるとクリーミーさがあるので飲み心地がよくて、苦味も感じず、ホップの風味を楽しめます。

「美味しく感じれた」というのはごく単純な仕組みだったと推測されます。

ビールマイスターという資格(?)がありますが、サーバーの洗浄や管理のほかに、ビールを注ぐ際に泡の比率とキメ細やかさを求められるとか。マイスターが注いだビールは一般人が注いだものより泡のもちがぜんぜん違ってまろやかで美味しいんですって。

ビールのほかにお酒が美味しくなるともいわれてますね。なんでも通気性があるおかげで、お酒の酵母菌の働き活発になり熟成されるのだとか。

お酒やビールなら30分ほど、ワインや焼酎でも5分程度、まろやかさとこくを出すためには、最低でもその時間浸しておかなければいけないようです。

ということは、焼き締めの器に注いだばっかりの日本酒を飲んで「美味しくなった」と言っているのは… 錯覚ということですね。

実際に検証してみた

備前焼に花を生けていると「花が長持ちする」といわれますが、簡単な検証でできるのでさっそくやってみました。

ガラスの花瓶と備前焼の花器を用います。それぞれに同時期に買った花を生けて数日~10日間ほど様子を見るというごく簡単明瞭な方法です。

「水が腐らないか」というのをより立証するためには水を替えないほうがはっきりするのですが、花がかわいそうなので2~3日で水は替えてやることにしました。(実験にならないかな)

実験1

実験1-1

一週間後↓

実験1-2

さらに5日後↓

実験1-3

期待に外れて備前の花瓶のほうが枯れてしまいました。
灰釉が結構かかっているせいかもしれません。また容器の大きさで水の量の影響もあるのかもしれません。

実験2

実験2-0-1

花器の形状を近いものに変更して再実験。今回は灰被りのない備前の花器を用います。(写真は買って来てから5日目)

さらに3日後↓

実験2-0-2

どちらも同じように枯れてしまいました。ガラスのほうが若干花が元気なような気がします。

実験2-2

今度は透過性のない花器を使用しました。また口(口縁)の大きさも大体同じぐらいのものを用いて実験してみます。水の量も毎回同じ程度の分量に気を配ることにしてみました。

実験2-1

約10日後↓

実験2-2

結果は前回以上にあきらかで、水が長持ちするといわれている備前のほうが奇しくも早々に枯れることになりました。

実験3

実験3-1

通気性の問題かと思われたので、ペットボトルを使用してみることにしました。光をさえぎるためにガムテープを巻き付けています。

約一週間後↓

実験3-2

ご覧の通り、ペットボトルのほうがぜんぜん長持ちしています。保存に適しているためか、今ほとんど水はペットボトルで販売されていますからね。

まとめ

今回は惨憺たる結果となりました。

陶器の通気性と花が長持ちすることには因果関係は見受けられないような気がしますが、あなたはいかが思われましたでしょうか。備前の水は腐りにくいということも残念ながら今回は実証するにはいたりませんでした。次回の実験では、もうひとつの備前焼を用いて実験をしようと考えています。

焼成の仕方には大きく分けて2通りあり、酸化焼成と還元焼成があります。酸化焼成と違い、還元焼成はかなり焼き締まる傾向にあります。(使用した備前の花器はいずれも還元焼成です。)

酸化焼成で焼かれた備前焼が火襷(ひだすき)と呼ばれているもので、しろっぽく焼き上がり、巻き付けた藁(わら)によってその部分が赤や朱色のたすき模様が特徴です。

焼成時の収縮率も還元焼成に比べれば大きくはありません。次回の実験結果もぜひご覧ください。ではまた

 

 

焼き物の高台のあるなし その必要性と用途など

高台

器を買うときのひとつの選択肢になるものに高台(こうだい)があります。ショップを訪問するとよく「お手にとってご覧ください。」と言われたことがあるかとおもいますが、老舗陶磁器やさんなどでは高台について説明をしてくれますよね。

人間でいうと足に相当するものが高台なのですが、なかにはないものもあります「碁笥(ごけ)底」。種類や高さもさまざま、高台についての予備知識を解説しますので用途や必要性に応じて購入時の目安となさってください。

必ずなくてはならない抹茶碗の高台

もっともよく見かけるのがお茶碗の高台です。抹茶碗の場合は美観的な要素が多分にありますが、高台の良し悪しで作品の気品さえも影響を及ぼすパーツです。

抹茶碗

茶道をたしなんだことがある人なら良くご存知だとおもいますが、一服したあとはお茶碗を拝見する作法があります。私の場合祖母が茶道を嗜んでいて、子供の時によくお稽古をさせられました。飲み干したあとは口縁(飲んだところ)を拭いて、茶碗を眺めるのですが、裏返して高台(や高台脇)、できれば名(サイン)なども拝見したものです。

そのあとは次の人にその茶碗を渡します。ようするにひとつの茶碗で飲みまわしするんですが、潔癖症の人には無理かもしれませんね^^:
このとき高台がひとつの役割を果たしてくれます。賢明な方はもうわかったかもしれません。そうです。指をそわせやすく持ちやすいんです。

ご飯茶碗なども同じことが言え、高台がなければ持ちにくかったり、持ち上げてから持ち直す手間がかかるでしょう。高台は持ち上げやすく設計された必要不可欠ないわばテクニカルデザインでもあるのです。

高台はがたつきを抑えるための足でもある

テーブルとの接触面を畳付きなどとよぶことがあります。茶会などに多いようです。料理好きの人なら「糸尻(糸底)」なんてよぶ人もおられます。

のちのち分かったことですが、ロクロで陶器を作るときに糸(しっぴき)で切り離すのですが、この糸の跡を残す場合があるので糸尻と呼ぶようになったもようです。

糸尻で包丁を研いだら、砥石にかけたようによく切れるようになりますが、ぜったいにしないでくださいね。危険ですし、高台がかけたりしたらがたついてしまうかもしれません。

ぐいのみ

高台には大きくわけると3種類あり、削りだしたものと付け足したもの(付け高台)そして型を用いて成型したものがあります。

いずれも器の安定に一役買ってくれます。さまざまなタイプがありますが、もっともオーソドックなものは撥(ばち)高台とよばれているもので、サークル状の突起になったものです。接触面が最小限に抑えられていて日常生活において非常に便利な構造になっています。

切り高台のうそ、ほんと

萩焼などでよく見かける切り高台ですが、お殿様が使うものではなく、庶民が使うものとしてキズをいれたという説がありますが、いささか強引な印象すら受けます。

その他にも諸説あって窯焼きの際に内側まで炎が通りやすくするためとか、机に(水分等の影響で)くっつくのを予防するため、紐にしばって運ぶ際に紐が引っかかりやすいように、などなど当時の作り手(使い手)の知恵によるものと考えたほうがしっくりこないでしょうか。

どこか不完全なものを慈しむ情緒のようなものも感じますよね。

切り高台

釉薬掛けの際には便利な高台

陶芸教室などにいって、薬掛け(施釉)までされた人なら経験があるかもかもしれません。焼成前に釉薬という「うわぐすり」を掛けるのですが、高台があるとそこをつまんで薬を掛けることができるのでひじょうに重宝します。

もし高台がなければ作品の胴回りや口元を持って薬をかけなければいけません。または釉掛けハサミとよばれるものを使用します。

薬によっては手の跡がくっきり残ってしまいます(それがいい景色になることもあるんですが・・・)。ただ手は汚れますしね。工房は屋外や半屋内が多いから、冬の工房で手を洗う職人さんにはけっこうシビアな環境下での作業ともいえます。

ご飯茶碗の高台

近年では施釉の際に、ラテックスや撥水剤というのを使用することが多いようです。塗布した部分だけ釉薬がはじかれるというすぐれものです。昔は手作業で糸尻や底辺部分についた釉薬をひとつひとつ取り除いていました。

ラテックスや撥水剤は装飾に用いられることもありますが、焼成時に窯の中の棚(板)に作品の底辺が溶着しないようにするために、釉薬の除去の工程を省略してくれる便利なものです。(釉薬が熱で溶けてガラス化し、棚板とくっつくため)

面積はすくなければ少ないほど作業は効率化します。そういった意味でも平らな(碁笥底)よりも高台の糸尻があったほうがいいわけです。

お店で商品を手にとって見たときによく観察してください。作品全体に釉薬がかかっていて、糸尻部分だけ無釉のものと、高台脇までしか薬がかかっていないもの(下部が全く無釉:土見せ)にでくわすことがあるかもしれません。

目土を用いた焼成

陶芸作品(主に器)の中には作品全部に釉薬がかかっているものもあります。ここで疑問がわきませんでしょうか?そうです、棚板にくっつくはずです(もしくは重ねて焼いた場合作品同士が)。

これは「目土」とよばれる荒めの土(砂)を作品の底に3つ目立てして焼き上げる技法のひとつを用いています。お茶碗の内側(見込み)に三ヶ所、まあるい色の違った部分がある作品を見られたことはなかったでしょうか?これは目土を用いて作品を重ね焼きした作品であることを指します。

地域や作家さんによっては貝殻を用いて焼成する場合もあります。素地(施釉していない部分)に貝殻を用いてる焼いている場合もありますが、これはその土地の土の成分等の関係で、焼成時に溶着しやすいのを予防する働きがあります。

近年ではアルミナ(粉)を塗って防止したり、シートを敷いて焼成する作家さんもおられます。

先人の知恵「トチ」

「トチ」という道具を用いる場合もあります。針が三本出ている道具で、その上に作品を乗せて焼成します。焼きあがり後は三ヶ所小さな穴が開いていて目立ちません。

トチ

手作りで作る人もいますが、比較的安価でいろんなサイズが販売されています。ただバランスがとても大切で、大きさを間違えると焼成時に倒れてしまうリスクもあります。また作品によってはゆがみを生む結果にもなるので、経験が必要な道具ともいえます。流れやすい釉薬による棚板との固着予防にも一役買ってくれます。

ペンダントトップなどのアクセサリーで作品全部に施釉したいときなどに便利かもしれませんね。

 

タタキ皿

じゃまな高台 ケースBYケース

ここまで書くと「高台」って大切なものなんだなあって思うかもしれませんが、実際はあるとじゃまなケースもあります。

壷や一輪挿しなどの花器などでは高台があると美観を損ねる場合があります。お皿や茶碗などで凹凸があるために洗うのが面倒だったり、洗った後に伏せていると水が溜まったりして困ったケースはないでしょうか。

お料理をいただくときに手に持つ器とそうでない器がありますよね。手にもつ器にはあると大変便利ですが、そうでないものにはなくても困るものではありません。コーヒーカップは取っ手がありますし、お湯のみや徳利は同体を掴みます。美観を損ねないのであれば無くてもことたりますので、あとはあなたのお好み次第。

機能性も兼ね備えていてあると便利な高台ですが、用途に応じて適切なものを選択することが望ましいと言えます。

型作りの器

-お手入れ- 高台の黒ずみはなに?

長年使用していると、高台が黒ずんでくる場合があります。もちろん汚れもありますが、うわ薬がかかっていないため「カビ」が繁殖しているケースがよくあります。磁器土を用いた京焼や九谷焼きなどはキメの細かい土なので、よく食器洗剤で洗ってやるか、場合によってはハイターなどの漂白剤を用いることで、黄ばみや黒ずみが落ちるケースがあります。

残念なことですが、素地のあらい陶器に関しては取り除くことはまず不可能です。もう一度焼成をしなおさなければ取れません。洗い物がすんだら出来るだけ速やかに水分を取り除き、よく乾燥させてから食器棚にしまうようにしましょう。くれぐれも電子レンジで乾かすなどということはしないでくださいね。

ではまた。